What is an ostrich antibody?

ダチョウ抗体とは

免疫あるいはアレルギーの原因となる物質を抗原(アレルゲン)と呼ぶが、体内に侵入した抗原に対して身体が生産する免疫にかかわるタンパク質(免疫グロブリン:Ig)を抗体と呼ぶ。抗体は抗原と結合して種々の免疫・アレルギー反応を引き起こす。IgA、IgG、IgM、IgEなどの種類があり、IgA、IgG、IgMが免疫にIgEがアレルギーに関与する。

抗体の概要

抗原と抗体

色の薄い部分が軽鎖、先端の黒い部分が可変部。適合する抗原が可変部に特異的に結合する。

抗体は主に血液中や体液中に存在し、例えば、体内に侵入してきた細菌・ウィルスなどの微生物や、微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合する。抗体が抗原へ結合すると、その抗原と抗体の複合体を白血球やマクロファージといった食細胞が認識・貧食して体内から除去するように働いたり、リンパ球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。これらの働きを通じて、脊椎動物の感染防御機構において重要な役割を担っている(無脊椎動物は抗体を生産しない)。

一種類のB細胞は一種類の抗体しか作れず、また一種類の抗体は一種類の抗原しか認識できないため、ヒト体内では数百~数億種類といった単位のB細胞がそれぞれ異なる抗体を作り出し、あらゆる抗原に対処しようとしている。

「抗体」という名は抗原に結合するという機能を重視した名称で、物質としては免疫グロブリンと呼ばれ「Ig(アイジー)」と略される。すべての抗体は免疫グロブリンであり、血漿中のγ(ガンマ)グロブリンにあたる。

抗原と抗体の違い(antigeny/antibody)

この2つの用語は対になって使われることが多いのだが、抗原とは病原微生物などの異物が体内に侵入し、体内で抗体をつくりだす物質のこと。一方の抗体は抗原に対抗して血清内や組織中に形成されるタンパク物質のことをいう。 抗体には抗原と特異的(とくいてき=特定の物質などにのみ生じる現象)に反応して凝集、沈降、または抗原の持つ毒素を中和するなどの作用があり、生体にその抗原に対する免疫性や過敏性を与える働きを持っている。

抗原抗体反応

私たち人間の体は非常に精巧にできており、日常のさまざまな刺激に対して、自動的に反応するようになっている。体内に異物が入ってきたときは、それが自分にとって都合の良いものか、そうでないのかを判別し、体外に排除しようとする。
体内に侵入した異物のことを「抗原」といい、抗原を識別した体は「抗体」を作り、つぎの抗原に備えようとする。
そして、抗体ができた体に再び同じ抗原が侵入してくると、抗体は抗原と結びつき、抗原を早く体外に出そうとする。
抗体は、タンパク質の一種で、血液の中に含まれており常に体内を循環している。
これらの反応を、「抗原抗体反応」もしくは「免疫反応」と呼ぶ。

ダチョウ抗体について

ダチョウ抗体の作製と利用

我々の体には、体外から侵入してきたウィルスや細菌などの異物を撃退する、免疫という生体防御システムが備わっている。免疫は非常に複雑な仕組みで異物を排除するのだが、その第一線でウィルスや細菌の増殖を抑えてくれるのが抗体である。

予防接種では、あらかじめ無害化した病原菌を注射しておくことで、たとえ病原性のウィルスや細菌が感染しても、その病状を弱めることができる。これも、それぞれのウィルス、細菌に合わせて作られた抗体が働いているからだ。こうした抗体の性質は、病気の予防だけでなく、さまざまな用途で利用されている。

そもそも抗体は、異物に含まれるタンパク質だけに結合して病気の原因を無害化する。このタンパク質だけに結合するという性質を利用して、特定のタンパク質を検出するのに抗原が用いられるようになっているのだ。例えば、体内のがん細胞だけが作り出すタンパク質を抗体で検出できれば、がんの診断ができることになる。

このように抗体の用途は広がっており、その市場規模にますます注目が集まっている。
すでに、マウス、ウサギやニワトリに抗原を注射して、体内でできた抗体を、マウス、ウサギは血液から、ニワトリの場合は卵黄から精製するという方法で抗体生産が行われているが、生産コストが高く、大量生産も難しかった。
そこで、塚本康浩教授が、ダチョウを活用して抗体を低コストで大量に生産できる新しい技術を開発した。

もともと、家禽の感染症の研究を続けていた塚本教授は、ニワトリに比べてダチョウは感染症に強く、鶏卵の25~30倍もの大きさの卵を産むことに注目。ダチョウを活用すれば、大量の抗体を生産できるのではないかと考えた。塚本教授がこう説明する。
「抗体生産のために動物に注射する抗原は高額です。当然、1個体で生産できる抗体が少量だと生産コストは高いものになってしまいます。その点、ダチョウの場合、1個の卵黄から約4gの高純度の抗体を生産できるため、消費する抗原は少なくできます。また、飼育施設も複雑なものを建設する必要はないため、低コストで大量の抗体生産が可能なのです。」

優良な個体なら半年で100個の卵を産むので、ダチョウ1羽で400gの抗体の生産が可能だ。これはウサギ800羽での抗体生産量に相当する。塚本教授の目論見通り、大きな卵のダチョウを活用することで抗体の生産性は大いに高まった。

ダチョウ抗体の性能

1羽のダチョウで抗体を大量生産できることは大きな利点をもたらした。
同じ種の動物に作らせても、抗体は個体ごとで微妙に違っている。そのため、従来の方法では製品間の品質にバラツキがでる。
ダチョウ抗体の場合、1羽で大量に生産できるので品質のバラツキは極めて少なくなる。
増殖能力を不活性化した複数のインフルエンザウィルスで抗原を作り、高病原性鳥インフルエンザを中和させる実験を行ったところ、従来の抗体と比較してダチョウ抗体にはウィルスを無害化する高い能力があることが確かめられた。
さらに、ニワトリを用いた抗体と比べて、ダチョウ抗体は熱に対する耐性があることも明らかになった。
高温でもウィルスに対する無害化活性を維持できれば、さまざまな加工ができ、これまでにない工業用途でのダチョウ抗体活用が期待できる。当初はダチョウの大きさに注目して、抗体を生産しようとしたが、ダチョウ抗体は予想以上の性能を持っていることが明らかになってきた。

ダチョウ抗体の可能性

ここ数年はダチョウ抗体の量産に精を出してはいるが、すべては学生時代から取り組んでいたがん細胞の研究が底流にあり、ダチョウ抗体を使ったがんの診断薬、がんの治療薬、新型インフルエンザ用ワクチンの研究に重きをおいて取り組んでいる。

ダチョウ抗体の利用法についても、当初はがんの診断キットに応用できないかと考えられていた。がん診断キットとは、がんに特異的なマーカー分子を抗原としてダチョウに抗体を作らせ、これを診断用試薬にして患者から採取された血液などの試料を反応させることによりマーカー分子の有無を検出し診断が可能になるものだ。しかし、診断キットを製品化するとなると厚生労働省の認可をうけるためにその有効性などを厳密に調べる必要があり、かなりの労力と時間を要する。従来の抗体生産方法では高価で少量の抗体しか得られなかったため高付加価値をつけた応用に限られていたが、ダチョウの優れた抗体生産性を考えればもっと大量に抗体を消費できる用途を活用してすぐ世の中に役立てるものはないかと考えたのである。抗体を大量生産できる利点を活かした今までになかった活用法として考え出されたのがマスクへの応用だった。こうして抗体マスクはがん診断キットの開発の中で生み出されたのだ。がん診断キットも現在開発が進んでいる。

学生時代から20年以上もがん研究を続けてきた訳は、がん細胞の複雑きわまりないメカニズムにある。最初に行ったニワトリの研究でギセリンという哺乳類の体内にも含まれる細胞接着因子に出会い、ギセリンはがん細胞の転移に関係しているとわかる。そのギセリンを抗体でブロックしてがん細胞の転移を抑制できないかと考えた。ダチョウ抗体では対応しにくい抗原もあるが、現在開発中の肺がん治療薬では、がんの転移に関与しているギセリンに対する高い精度が確かめられた。

生物には外界からの異物を排除する機能「免疫」が備わっているが、その免疫システムで中心的な役割である抗体を使ったがんの治療薬「抗体医薬」は、抗がん剤よりも副作用が少なく本人の免疫力を高めるので体力を落とさず治療を維持することができる。そしてダチョウ抗体で薬を作ることができれば、高精度な上に量産化でき更に低コストという経済面でも患者の負担を減らすことができ、世界中のあらゆる数の難病の人々を救えることになるだろう。この免疫システムを利用した研究は、最先端をいく画期的な技術であり研究が成功すればがん治療だけでなくその他の難病治療への道を切り開く新世代抗体医療品の誕生となる。

大学での研究タイトルを紹介すると、「ダチョウを用いた新規有用抗体の低コスト・大量作製法の開発、がん細胞における細胞接着分子の機能解明とその臨床応用化、高病原性鳥インフルエンザ防御用素材の開発」である。

研究内容を完結に取りまとめるとこうなる。創薬や診断をはじめ幅広い分野への展開が期待されるポストゲノム研究において、抗体の活用は極めて重要なテーマである。しかしながら、マウスやウサギなどの哺乳類を用いて抗原特異的抗体を創製する従来法には、生産性と特異性等に関わる課題が存在していたので、超大型鳥類であるダチョウを用いて新規有用抗体を低コストで大量に創作し、ロット間差の少ない研究用試薬、診断・検査キットの研究開発を行った。特に肺癌、鳥インフルエンザ、BSEの検査キットや鳥インフルエンザH5N1ウィルスの防御用素材の開発を重点的に行っている。また、鶏より見出した細胞接着分子ギセリンの発生・再生・腫瘍における機能解析を行っている。特に、がん細胞の転移をギセリンの発現と細胞接着能(細胞-ECM)を中心に研究している。

昨今では、がんや関節リウマチなどこれまで治療が難しく、場合によっては命を奪われる病気の治療が「抗体医薬」によって少しずつ進歩し治るケースも増えている。例えば「抗ヒトTNFαモノクロナール抗体製剤」は、海外では欧米を中心にすでに100ヵ国以上で、150万人以上の関節リウマチやクローン病の患者さんに使用されている抗体薬品だ。日本においては、7万人以上の患者様に投与されている。

他に抗体を利用した商品としては、抗体を利用した検査キットがある。その一例としてカドミウム簡易検査キットをとりあげてみる。カドミウムとは土壌などの自然環境中の貴金属の一種で農畜水産物に蓄積する。それを人が食物として長年にわたり摂取すると、腎機能障害を引き起こす可能性がある。食の安全を守るために日本を含め世界174ヵ国にて、食品に含まれるカドミウムの上限が規制されている中、食品に含まれるカドミウムに特異的に反応する抗体を作り出し簡易検査キットに応用させることで、世界の食の安全を守る開発もある。

抗体に関する研究や開発商品は、世界中の人々のためになるものばかりだ。そしてこれからも抗体の可能性は広がっていく。

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